場末の映画館

昔は、映画館が小便臭かったもんだがなあ。

インプットかアウトプットか

 

 以前、こんなTweetが話題になったことがある。

「昔クリエーター仲間で、1日8時間作業する人と、8時間遊んで1時間しか作業しない人がいたんですけど、成功したのは後者でした。いいアイデアって膨大なインプット無しには出ないんだなぁ……と思いました」

 思わず怒鳴りましたね。

 何を嘘を言うとるんじゃー。ワシは、コミュ障やからみんなに敬遠されて1日1時間しか仕事をせんかったけど、成功しとらんぞー。いまだに自販機でコーヒーが出てこなかったら、ちゃんと管理会社に電話して金を返してもらうほど貧乏なんじゃー。こんな嘘をしたり顔で語るなくそぼけがー。ギャオー。

 あのですね。

 その人が成功したのは1日1時間しか作業しなかったからではなくて、その人に才能があったからに決まってるじゃないですか。才能がなければ1時間作業をしようが、8時間作業をしようが成功はせんのですよ。

 そもそも「作業」というのがよくわからない。

 Tweetの内容からすると、実際のデザインワークやライティングを作業と呼び、アイデア出しのためのインプットと分けているようだが、インプットというのは、業務時間に限定してやるものではない。本来は業務時間以外の言わば日常生活において、インプットは積み重ねるものだと思う。

 私の知り合いにも「いい映画を見たり遊んだりするのは、我々の仕事には大切なことだよ」などと言いながら、就業中に抜け出して映画を見ているやつがいたが、私は「何カッコをつけておるのか」と唾棄していた。「映画が見たいんだったら『映画が見たいから行ってきます』と正直に言わんかい。この東京もんが」

 そもそもインプットのための「遊び」など、それを意識した時点で遊びではなくなるのだ。インプットを意識して映画を見たり、本を読んだり、音楽を聞いたり、酒を飲んだり、女の子といちゃついたりすることの、なんと味気ないことか。芸の肥やしなどと言い訳をした昔の芸人のなんと薄っぺらなことか。「わしのいきり立ったチンポに逆らえませんでした」と正直に言わんかい!

 いや、申し訳ない。ある人を思い出して、つい激高してしまった。

 前述のTweetのような内容をしたり顔で言う人は、「人間観察が趣味」だの「人間を見ているのが一番面白い」だのと言ってるやつと同様の胡散臭を感じる。そもそも「8時間遊んで1時間しか作業しない人」って、お前、ずーっと毎日その人を監視しとったんかい、と問いつめたいのである。

 クリエイティブワークに関して言うと、まず、アイデアラッシュがあり、アイデアを煮詰めていく過程があり、その次に具現化していく工程がある。具現化する際は、それこそ何十案も作り、8時間どころではなく、24時間作業が続く場合もあるのだ。アイデアを出すだけのクリエーターなどちょっと想像できないし、こうした過程はどの業種でも共通しているのではないか。

 ちなみに「アウトプット大全」という本の著者である精神科医の樺沢紫苑さんによると、「圧倒的に結果を出し続けている人は決まって、インプットよりアウトプットを重視している」「インプット量と自己成長には相関がない」「月3冊読書をして3冊に対して感想を述べる人と10冊読んで1冊しか感想を述べない人では前者の方が成長する」とのことである。

 この人が正しいとは限らないのだが、私には、いたって正論に思える。上記のTweetは、あまりにインプットを重視しすぎたフィクションと考えたほうがいいだろう。

 このTweetに賛同するうさんくさい連中のコメントがいくつか載っていたが、いやいや、お前、こんなのを真に受けて「よし、おれも作業は1時間にしよう」などと思っていたら、大変なことになるよ。天才的な人ならそれでもいいかもしれないが、そうでない人は、コツコツコツコツ10時間でも15時間でも作業しなくてはいけない。

 ちなみに成功していない私でさえ、いまでもアイデアラッシュに関しては1日24時間体制である。

 寝ているときにも枕元にメモ帳を置き、たとえセックスの途中であってもいいアイデアを思いついたらすぐにメモ。相手が綾瀬はるかで、「見て見て、私のおっぱい」などと彼女が迫ってきても、「いや、いいアイデアを思いついたので、ちょっと待ちたまえ」とメモを取るのである。でないとおっぱいに飛びついた瞬間にアイデアを忘れてしまうのだ。

 まあ、嘘だけど。

 もうひとつちなみに、私が尊敬するアインシュタインは、「成功者になろうとするな。価値のある人間になれ」と言っている。

 成功者などは、自己啓発本が大好きな人や人材交流系のパーティーで物欲しそうに名刺を配っている連中や、それ系のセミナーに応募してしまう人たちに任せておけばよろしい。