場末の映画館

昔は、映画館が小便臭かったもんだがなあ。

(全部ネタバレ注意)「ハドソン川の奇跡」は、実話を元にした映画であるが、わりと嘘もあるらしい。

あれは、驚いたなあ。飛行機に乗っていてジェットコースター状態になったのである。台風の影響だった。

いきなりドーンと落下した。軽い悲鳴の後、乗客から照れ隠しの笑い声がもれた。だが、そんな落下が繰り返されると、すっかり余裕がなくなり口から出るのは本気の悲鳴である。一瞬に落下して、体が宙に浮くのだ。ベルトをしていなければ、天井に張り付いていただろう。

斜め前のオッサンは悲鳴を上げた直後に落下して舌を噛み、その隣の婆さんはへそを噛み、私は隣席の美少女の首を噛み、まさに地獄絵図である。

乱気流から何とか逃れ、間もなく着陸とのアナウンスがあり、やれ嬉しやとホッとしたのもつかの間、高度を下げる飛行機の進路がどんどんずれていく。

いやいやいや、滑走路からずれてますがな、このままでは着陸は無理ですがなとハラハラしていたのだが、結局着陸できずに随分遠くの飛行場に変更され、タクシー代がひどく高く付いた。

飛行機とは怖ろしいものであり、環境少女グレタさんではないが、私もそれ以降飛行機に乗るのはやめたのだ。新幹線、万歳!

さて、Amazonプライムで「ハドソン川の奇跡」を見た。旅客機がハドソン川に不時着する話である。

一応注意しておくが、ネタバレがある。いや、全部ネタバレと言っても過言ではない。

そもそも勝手に人のブログを読んでおきながら「ネタバレやんけ。マナー違反や」などとほざくこと自体がおかしいのだ。見た映画について「ここがよかったよね」とか「まさかこんな展開とは予想もしなかった」と語ることが楽しいのである。まだ見てもいないのに、他人のブログを読むなど、これほど愚かなことはない。愚行というかキチガイ沙汰である。そんな知的レベルの低い人間は、読むのをやめてとっとと地底に帰りたまえ。

当ブログは、ネタバレ上等。「シックスセンス」の主人公は幽霊だし、「エスター」の少女は33歳のオバサンだし、「猿の惑星」は実は地球だったのだ~っ。

さて、「ハドソン川の奇跡」だ。

鳥の大群と遭遇し、エンジンが二つとも停止。管制官は、近くにある飛行場に着陸せよと命じるのだが、地上はビルが建ち並ぶ人口密集地であり、墜落は許されない状況である。パイロットは、飛行場までもたないと判断し、ハドソン川に着水することを選択する。

主人公のパイロット役は、トム・ハンクスである。あまり感情を見せない実直な男と言った役柄で、まあ、見た目のまんまだ。これがジャック・ニコルソンだとどう考えても途中でキレて無理矢理墜落させるだろうし、シュワルツェネッガーならドアをこじ開けて一人で脱出する。別の映画になってしまうのだ。やはり、キャスティングは重要である。

無事に着水し、一人の犠牲者も出さずに生還するのだが、もちろんそれだけではただの「奇跡」である。映画にはならない。

当然のごとく、英雄のはずの彼に危機が訪れる。

「お前、なんでわざわざ川に着水したんや。管制官は、近くの飛行場まで行け言うたやろが。さては、スタンドプレーに走りよったな。英雄になろうとしたんやろっ。乗客の命をさらすとは、なんちゅうことしよんねん。さらしてええんは、自分の金玉だけやろが~っ」

いや、ひどいものである。

さらにシミュレーター(操縦席を再現した乗り物で、外から見ると四角い箱が操縦に合わせて上下左右に動くやつ。フライトシミュレーターが好きな人間にとっては夢の装置)で当時の状況を再現し、飛行場まで行けることを証明してしまうのだ。主人公、危機的状況である。このままでは、ただの目立ちたがり屋の危険なパイロットという烙印を押されてしまう。

公聴会でも複数のパイロットによるシミュレーションが見せられ、いずれも飛行場への着陸が成功した。やはり主人公の行為は、無謀なものだったのか。

その時、トム・ハンクスが言った。

「今のシミュレーション、パイロットは、事前に何回練習しましたか?」

事故調査委員のオバチャンが、ちょっとためらったあと答えた。

「17回です」

私は、驚いた。このオバチャンは、アホか。練習してどうする? それでは、検証のためのシミュレーションにはならないではないか。事故当時の状況のままに再現するからこそ検証のためのシミュレーションである。

しかも、シミュレーションでは、鳥の群れに突っ込んだ直後から飛行場に向かって進路を変更しているのである。いやいやいや。それはおかしいでしょうが。状況をチェックし、分析する時間が含まれていないのだ。事故調査委員会の連中は、やっぱりアホなんやと私は確信した。

結局35秒後から回避行動を開始することになり、そのシミュレーションでは、どうやっても飛行場までたどり着けずに墜落するという結果になった。やはり主人公の行動は正しかったのである。

このあたり、事故調査委員会の連中がマヌケな悪役として描かれているが、それはあくまで映画上のことである。現実には、そんなことはなかったらしい。実際の公聴会はパイロットを責めることはなく、「パイロットに責任はなし」とすぐに結果が出たようだ。このパイロットは、最初から最後まで英雄扱いだったのだ。

まあ、結局は実話を元にしたフィクションということである。配給元は、誤解を与えないためにも「37%実話です」と正確に伝えるべきだな。

ハラハラしたり事故調査委員会に腹を立てたりして損をしたな、と私は思った。もし、当時の事故調査委員会の人に出会ったら、「いやあ、映画では悪役にされてしまってひどい目にあいましたね」と缶コーヒーの一本でもおごってあげたいと思う。