場末の映画館

昔は、映画館が小便臭かったもんだがなあ。

「名は体を表そう協会」からの提言

 

 ええ、「名は体を表そう協会」の会長、山田はじめでございます。名は体を表すべき、そう主張してはや3年。まだまだ道半ばでございます。

 この間も、わたくし、このようなことを言われました。

「いいかげん、ぼくの名前をきちんと覚えてくださいよ。もう一年以上の付き合いなんですよ」

 確か、彼は、岡田とか中田とかのポピュラーな名前だったと思います。田が付いていたのは間違いないと思います。彼は、外見にも特徴がない。中肉中背。特徴的なメガネもかけてないし、はげてもいない。

 私は断固として言いたい。こんなありふれた人間の識別は不可能である、と。言っておきますが、私は、決して頭が悪いわけではない。キリがないのでやめましたが、円周率だっていくらでも覚えられるのであります。

(以後、円周率232桁まで暗唱するがカット

 もちろんわたくしも心苦しくはある。これまで人の名前を間違えること数千回。小学生の時には、「名前を覚えてくれない」と女の子に泣かれました。事務所を立ち上げたときも、社員に対しては「お~い、そこの君」で通しました。一番ひどいのは、相手の社長の名前を間違えて呼んでしまったことです。得意先がひとつ減りました。

 だから、この間も名前を間違えてはいけないと、私は彼に向かって「お~い、岡田君みたいな名前の人」と呼んだのです。それは、私なりの配慮だったのです。「岡田君みたいな名前」であれば、たとえ彼が中田君であったとしても、明確な間違いにはならないのであります。

 しかし、彼はそれにいたく傷ついたようで先ほど言ったとおりの文句を言われたのであります。

 私は、言いたい。

 まず、外見を覚えてほしいなら、特徴的な外見になる必要があるのではないか。そして、名前を覚えてほしいなら、その外見に合った名前にする必要があるのではないか。

 具体的に説明いたしましょう。

 スキンヘッドで小太りのオッサンの場合、後ろから見ると、首のあたりにシワが寄っている。どう見てもチンコの先端にしか見えない。頭の先にマジックで割れ目を描けば、チンコそのものなのであります。

 非常に特徴的な外観だ。これなら私でも覚えられます。

 そして、このオッサンの名前は、「亀頭」がふさわしいのであります。完璧を期すなら、「珍歩でた雄」と名乗るべきなのであります。

「はじめまして、珍歩でた雄です」

 チンコみたいな頭のオッサンが、珍歩でた雄であれば、誰でも、覚えられるのであります。

 見た目と名前が一致することにより、名前を間違えて呼んでしまうといったアクシデントも防げるのであります。実に正しい論理だと思いませんか。

 今こそ、名前というシステムを一新し、正しくわかりやすい命名を推進すべき時なのであります。

 ちなみにわたくしは山田はじめという極めて平凡な名前でありますが、「名は体を表そう協会」の会長としての責任を果たすべく、ほれ、このとおり、額に山田はじめとタトゥーを入れているのであります。間違える心配は皆無でございます。

 顔を覚えるのが苦手な方。重い相貌失認で苦しまれている方。そして、なにより名前を間違えて呼んでしまうことの恐怖に怯えておられる方のために、私どもは懸命に活動を続けております。

「名は体を表そう協会」へのご支援を心よりお願い申し上げます。

 

※この内容はフィクションですが、各エピソードについてはタトゥーを除いてほぼ事実です。