場末の映画館

昔は、映画館が小便臭かったもんだがなあ。

人の脱糞を笑うな

 

「爺、なにをニヤニヤしている」

「坊ちゃま、実は立憲民主党が一般人の方を刑事告発したということで。その理由が面白うございまして、ついニヤニヤとはしたない真似をしてしまいました」

「なに!? 一般人を刑事告発だと。ただ事ではないな。また、暗殺計画でもあったのか。しかし、立憲民主党には暗殺されるほどの優秀な議員はいなかったと思うが……。ああ、わかった。政治的な理由ではなく、単に嫌われていたんだな。確か、ひろゆきとか言うフランス帰りの議員が炎上していたな。そいつだろ?」

「いえ、違います。そもそも、それはひろゆき違いでございます。フランスにいるのは、議員ではなくYouTuberのひろゆきです」

「なんだ、別人か。ややこしい連中だな」

「まあ、どちらにしても、その議員に対してはあまり言及しない方がようございます。すぐ法的措置をチラつかせる御仁でございまして」

「じゃあ、そいつが一般人を刑事告発したのか?」

「いえ、刑事告発したのは立憲民主党で。しかも、その理由がとんでもないものでございまして。実は、立憲民主党の愛知県議が使った高級焼肉店の個室にウンコが放置されていたのでございます」

「なんと!?」

「真相はわかっておりませんが、立憲民主党が使っていた以上、まず疑われるのはその議員たちです。その事件に対して、ネットでは『脱糞民主党』などとからかう記事やコメントが横行いたしました。その中でどこかの絵師が立憲民主党ロゴマークにウンコを書き加えて発信したのですが、それに対して、立憲民主党刑事告発を行ったのでございます」

「なんだと。怪しからん奴だな。許せん!」

「おっしゃるとおりでございます。いかに支持率が低いとは言え、国政政党ともあろうものが『脱糞民主党』と言われただけで刑事告発とは……」

「馬鹿者。私が許せないのは、脱糞者を笑いものにした連中のことだ。脱糞するには理由がある。もちろん高級焼き肉店の個室で脱糞するのは怪しからんが、やむを得ない理由があったのだろう。おそらくは、食べ慣れない高級肉を食べたせいで、腹具合がおかしくなったにちがいない」

「はあ、そうでございますか」

「そもそもその絵師にしても脱糞を笑える立場なのか? オナラだと思ったら、実はウンコも出ていたという過ちすらないと断言できるのか? いいや、そんなことはあるまい。キリストも『脱糞したことがない者だけが石を投げよ』と言っていただろう。世の中の連中は、あまりにも脱糞に対して偏狭すぎる」

「ああ、そう言えば、坊ちゃまも小学生の時にウンコを漏らしておられましたなあ。確か、ドッジボールの時にボールを腹で受けた瞬間にブリッと……プハッ」

「なんだ、爺。笑っているのか?」

「い、いえ、とんでもございません。あの時の坊ちゃまの落ち込む様を思い出すたびに、爺の胸は張り裂けそうでございまぷっぷっ」

「確かに私は脱糞者である。しかも、修学旅行では寝小便をしてしまった男だ。小学生で大便と小便をもらした経験をした者など、滅多にいないはずだ。笑われても仕方がないのかもしれんが……」

「い、いえ、その経験があってこそ坊ちゃまの今があるのでございます。少しでも腹具合が悪ければトイレに数時間も閉じこもり、外出時には正露丸3箱を常に携帯し、万一に備えて替えパンツ3枚、さらには替えズボンまでバッグに入れるというのは、坊ちゃまの優れた危機管理能力があってこそのプハッ」

「……爺、長い間ご苦労だった。私が人の失敗を笑うことを忌み嫌っていることを知っているだろう。荷物は後で送ってやるから、今すぐこの屋敷を去れ」

「お、お許しを。ぼ、坊ちゃま~プププ。わ~っはははははは」