場末の映画館

昔は、映画館が小便臭かったもんだがなあ。

午前二時の「世界樹の迷宮」

 午前二時に尿意で目が覚めた。

 寝たのは十二時くらいである。二時間持たないほど、膀胱の性能が落ちているらしい。コーヒーもひかえめにし、もはや寒くもないのに情けないことだ。あと十年したら、さらに性能が落ちて一時間おきにトイレに起きるのではないか。

 以前、膀胱も甘やかしてはいけないと聞いたことがある。

 多少は尿意を感じても、我慢していると膀胱が広がって溜められる量が増えるのだそうだ。筋トレや柔軟体操と同じである。私は心配症のためか、機会があればすぐにトイレに行っており、そういう意味では完全な過保護。箱入り息子というか、箱入り膀胱であり、育て方を間違えたと後悔している。

 まあ、育て方を間違えても、膀胱は人を殺したりはしないので問題はない。

 さて、トイレに行ってスッキリして戻った布団の中は心地よく、本来なら二度寝するのだが、なぜか目が冴えて眠れない。

 運転手のように睡眠不足では困る仕事ではないし、せいぜい打ち合わせ中に寝てしまう程度だ。事故といっても、テーブルの上にヨダレをたらしたり、寝ぼけて隣のおっさんをぶん殴る程度だろう。寝られないのなら、寝なくてもいいのである。

 こういうとき、昔なら照明を付けて、パソコンに向かうか、本を読むかだったのだが、今は携帯型のゲーム機やらスマホがある。一昔前と比べると、夢のような環境だ。布団の中に居たまま、時間がつぶせるのである。

 とりあえず任天堂のDSで「世界樹の迷宮」をやりはじめた。

 ご存知か。パソコンゲームで有名なウィザードリィ系のRPGゲームなのだが、歩いた場所がオートマッピングされる。ウィザードリィと比べると随分ラクだ。グラフィックもそこそこ美しく、音楽もついて、至れり尽くせりである。

 ウィザードリィの楽しさのひとつに倒した相手から武器や防具を奪うことがあげられるのだが、「世界樹の迷宮 」では、敵から鋭い針やら硬い殻などの材料を奪い、それを店に売ることで新しい武器や防具が店頭に並ぶ。

 合理的なシステムだが、強敵を倒して強力な武器が現れた時の喜びには劣る。このあたりは、同じウィザードィ系の「エルミナージュ」の方が喜びは大きい。

 夜中に起き出し、パソコンに向かって戦士や侍をレベルアップさせた昔と比べ、布団の中でのレベルアップは極めてラク。緊迫感に欠けるような気がするのだが、意外と必死度が上がる。

 ラクな姿勢でのゲームは、集中力が増しているのかもしれない。私は、眠気を感じることなく、ウォリアーの花子さんやモンクの京子さんと共に冒険を続けた。

 ふと気がつくと、また尿意が高まっていた。Alexaに時間を聞くと「午前四時十六分です」と教えてくれる。

 やはり、膀胱を甘やかせすぎたようだ。ゲームを中断することの腹立ちを感じながら、私は再びトイレに向かった。

 排尿がすんだ後、私は、つい腹立ち紛れに「この情けない膀胱め」と毒づいた。そして、「思い知れ」とばかりに睾丸の皮の部分を思い切り引っ張ったのだが、すぐに自分の過ちに気がつく。

「違う違う。それはキンタマであって膀胱ではない」と間違いを自ら正し、「すまなかった。いかにも尿がたまりそうな形状なので、つい勘違いしてしまった」と我が睾丸に陳謝した。